独白集

今は主にエッセイを書いています。

ある日のさよなら

 10年ほど前に嫌な別れ方をした人からもらったものを捨てた。

 正確に言えば貸してもらったのだが、返す前に相手から連絡手段を完全に断たれたので手元に残ってしまったものだった。これも俗に言う「借りパク」にあたるのだろうか。

 傷つけられた悲しみと、他人のものを返すことができない罪悪感。

 なんでずっと持っていたのだろうと思いつつも、なんとなく捨てるのは躊躇われて、一度ゴミ箱に入れたものを取り出して数分間眺めていた。けれど、やはり捨てることにした。

 その人のことを思い出すだけで嫌な気持ちになるし、今でも傷付いている自分がいる。

 

 だけど、その人から教えてもらったこともある。

「あなたは不幸に憧れているように見える。」

「あなたは失敗が嫌いでしょう。」

 その2つの言葉は今でも心に残っている。

 

 確かにあの頃の私は不幸に憧れて、自分を不幸に見せることで他人の気を引こうとしていた。そして、失敗を恐れて身動きが取れない性格だった。

 でも10年ほど経って、私は変わった。もう私は絶対不幸になりたくないと思っているし、失敗を重ねすぎてもはや失敗が怖くなくなっている。

 少しは強くなった、のかもしれない。

 

 彼にもらった言葉はもう私には必要ない。だからもうそんな辛い思い出は要らないのだ。そう思ったら楽になった。

 ありがとう、そしてごめんなさい。

 さようなら。

 

 2022.11.2